中国のQ&Aサイト・知乎(Zhihu)で最近、「アメリカの『斬殺線(貧困層が命を落とす境界線)』を唱える人たちは、なぜアメリカ政府が無料の医療・住居・教育を提供していることに触れないのか」という質問が話題になった。批判者がアメリカの福祉を意図的に無視しているという含意だが、この質問自体が不正確な前提に立っている可能性がある。
まず、英語圏のインターネットで広く流布しているミームを見てみよう。「なぜアメリカ人は医療費が無料であるかのように食べるのか(Why do Americans eat like they have free healthcare?)」。このミームの妙は、アメリカに無料医療はないという事実を皮肉で突いている点にある。そして最も好んで使うのは英国人だ。英米という「親子」の日常的な言い争いで、アメリカ人は英国人の食事を嘲笑し、英国人者は「無料医療があるみたいに食べる」と反撃する。双方が相手の急所を分かっている。アメリカ人は実際にこの一言で傷つく。医療保険の問題は米社会の敏感な神経だからだ。
「無料医療」は現実になったことがない
アメリカが本当に無料医療を実現していたなら、オバマ氏が2009年に推進した医療改革は意味を失う。オバマケア(Affordable Care Act)の核心的な目標はまさに保険適用の拡大と保険料の引き下げであり、付け足しではなかった。改革前、アメリカには数千万人が保険に未加入だった。改革後、適用範囲は広がったが、「無料」にはほど遠い。今日に至るまで米国の医療支出は高止まりし、個人破産の相当部分が医療債務と関係している。したがって「米政府が無料医療を提供している」という前提自体が成立しない。
無料の住居・教育も検証に耐えない
無料の住居について。アメリカには低所得層向けの住宅補助やフードスタンプ(食料品購入支援)制度があるが、これらはセーフティネットであり普遍的な福祉ではない。複数の大都市で路上生活者の数は増え続けており、本当に無料の住居があるならこの現象は説明しにくい。無料教育については、公立の小中学校は確かに無料だが、高等教育の学費は高く、学生ローンの総額は1.7兆ドルを超え、多くの若者にとって重い負担だ。「公立学校がある」を「無料教育」と同一視するのは概念のすり替えである。
ミームの背後にある認識のずれ
この知乎の質問が議論に値するのは、よくある認識のずれを映しているからだ。アメリカに何らかの社会福祉制度があることを、アメリカが全面的な無料福祉を提供していると読み違えている。英語圏のミームが流行するのは、アメリカ人も英国人も無料医療が冗談だと分かっているからこそだ。ところが質問者はその冗談を事実と受け取り、逆に他人になぜ触れないのかと問い詰めている。いささか皮肉である。
公共政策の議論には正確な前提が必要
もちろん、アメリカに社会福祉がないと言っているのではない。アメリカにはメディケア、メディケイド、フードスタンプ、セクション8住宅バウチャーなど複数の制度があるが、いずれも厳格な資格要件があり、適用範囲と手厚さは多くの欧州諸国に遠く及ばない。「斬殺線」やいかなる社会問題を論じる際も、事実の前提の正確さは極めて重要だ。「アメリカに無料医療はあるのか」すら間違えていれば、その後の議論が建設的になるのは難しい。
存在しない事実をなぜ取り上げないのかと問い詰めるより、その事実が本当に存在するかまず確認したほうがよい。英国人でさえ「無料医療」でアメリカ人の急所を突くと知っているのだから、このミーム自体がすでに答えを示している。
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